日本の本社ビル、5階の小さな会議室。
出席者は、海外顧客の技術担当者2名と、日本側の技術者3名+営業1名。
テーマは、新しく提案しているシステムの技術説明。
日本側の担当エンジニアが、英語で25分間のプレゼンを終えたところでした。
完璧とは言えないけれど、
スライドもきちんと進んだし、要点も何とか伝えられた手ごたえはある。
同席していた私も、「まずまず順調だな」と思っていました。
そして、締めくくりの一言。
“Any questions?”
その瞬間です。
オンラインで参加していた海外顧客の若いエンジニアが、画面の向こうでスッと顔を上げました。
海外顧客Yes, I have a question…
そこから始まった英語の質問が、なかなか終わりません。
文が長い。専門用語も多い。アクセントも少し強い。
隣で聞いていた私は、「あ、これは少し厳しいかもしれない」と感じました。
質問が終わっても、日本側のエンジニアは黙ったまま。
目線はパソコンの画面と資料の間を行ったり来たりし、
会議室の空気が、少しずつ重くなっていきます。
2秒、3秒、5秒……
誰も何も言わない時間が、やけに長く感じられました。
やがて彼は、少し申し訳なさそうな顔で口を開きました。
“Sorry, could you say that again, more slowly?”
海外顧客のエンジニアは、快く同じ質問を言い直してくれました。
それでも、日本側のエンジニアの表情は固いままです。
最終的に、私は横から小さな声で質問の要点をかみ砕いて伝え、
なんとか回答につなげることができました。
会議自体は大きなトラブルもなく終わりましたが、
会議室を出たあと、日本側のエンジニアはポツリと言いました。



・技術の中身なら全然負けてないはずなんだけどな……
・英語で質問されると、頭が真っ白になるんですよね
プレゼン本番より怖いのは、質疑応答。
こうした場面は、決して珍しいケースではありません。
海外顧客との少人数の打ち合わせでも、英語の質疑応答になると急に空気が重くなる――日本企業の現場で、何度も見てきた光景です。
技術的な内容は誰よりもよくわかっている。
日本語なら、どんな質問にも即答できる。
それでも、英語の質疑応答になると、途端に頭が回らなくなる。
もしあなたにも、似たような経験が一度でもあるなら――
この記事は、まさにあなたのためのものです。
質疑応答は、「英語が得意な人だけの世界」ではありません。
事前に「型」と「準備」をしておけば、英語が苦手でも、かなり安心して乗り切れます。
ここから先では、
海外顧客との少人数の技術打ち合わせでも使える、
想定外の質問にも動じない5つの対応パターンを紹介していきます。
Section 1: なぜ質疑応答が怖いのか?―3つの心理的障壁


障壁①: 「完璧に答えなければ」というプレッシャー
技術者であるあなたは、正確さを重んじます。
でも、それが裏目に出る。
「正確に答えられなければ恥ずかしい」
「専門家として完璧でなければならない」
このプレッシャーが、思考を止めてしまうのです。
障壁②: リスニングの不安
プレゼンは、準備した原稿を話す行為。
質疑応答は、予測不能な英語を聞き取る行為。
この違いが、難易度を跳ね上げます。
特に:
- 質問者のアクセント(インド英語、ドイツ英語、中国英語)
- 専門用語の聞き取り
- 早口の質問
これらが重なると、パニックになります。
障壁③: 「即答」への過度な期待
多くの日本人技術者が誤解しているのは、



「質問されたら、すぐ答えなければいけない」
という思い込みです。
でも、実際のグローバル環境では:
- 考える時間を取るのは当然
- わからないことは「わからない」と言う
- 後日回答を約束するのも普通
完璧な即答より、誠実な対応が評価されるのです。
Section 2: 想定外の質問にも動じない「5つの対応パターン」


質疑応答には、5つの基本パターンがあります。
このパターンを身につければ、どんな質問にも冷静に対応できます。
パターン1: 即答型「すぐに答えられる質問への対応」
使用場面:
- 予想していた質問
- 事実確認の質問
- スライド内容の補足
基本フレーズ:
- ✅ Yes, that’s correct. Let me elaborate…
- ✅ Good question. The answer is…
- ✅ Absolutely. Based on our data…
発音ポイント:
- “elaborate” [ɪ-LAB-ə-reɪt] 第2音節を強く
- 「エラボレート」ではなく「イラボレイト」
実例:



質問:
What’s the maximum processing speed?



回答:
Good question.
The maximum speed is 500 megabits per second under optimal conditions.
パターン2: 時間稼ぎ型「考える時間が必要な時」
使用場面:
- 複雑な質問
- 計算が必要
- 正確に答えたい時
基本フレーズ:
- ✅ That’s a great question. Let me think about that for a moment…
- ✅ Hmm, interesting point. To give you an accurate answer…
- ✅ Good question. If I understand correctly…
発音ポイント:
- “interesting” [IN-tə-res-tɪŋ] 第1音節を強く
- 「インタレスティング」ではなく「イントゥレスティング」
重要:
時間稼ぎは悪いことではありません。むしろ、正確な回答をするための誠実な姿勢です。
実践テクニック:
- まず質問を繰り返す(理解確認+時間稼ぎ)



So you’re asking about…
2. 考える時間を明示的に取る



Let me think… (2-3秒の沈黙はOK)
3. 段階的に答える



First… Second… Finally…
パターン3: 専門外対応型「知らないことを正直に認める」
使用場面:
- 自分の専門外の質問
- データを持っていない
- 確証がない情報
基本フレーズ:
- ✅ That’s outside my area of expertise, but I can connect you with someone who can help.
- ✅ I don’t have that specific data with me, but I’d be happy to follow up after the presentation.
- ✅ That’s a valid question, but I’d need to verify that information before giving you a definitive answer.
発音ポイント:
- “expertise” [ˌek-spɜr-TIːZ] 第3音節を強く
- 「エクスパタイズ」ではなく「エクスパティーズ」
実例:



質問:
How does this compare to the XYZ algorithm?



回答:
That’s outside my specific area of expertise.
However, our team lead has done extensive research on that comparison.
I can introduce you after this session.
グローバル英語の真実:
「わからない」と正直に言える誠実さは、
知ったかぶりより100倍評価される。
ある技術者の失敗談:
米国での技術プレゼンのあと、
海外顧客からの質問に対して、日本側の技術者が「知ったふり」で答えてしまったことがありました。
後日、回答の一部が事実と違っていたことが分かり、顧客の信頼を取り戻すのに時間がかかりました。
それ以来、「わからないことはわからないと言ってもらえるように、隣で支えるのが自分の役割だ」と強く意識するようになりました。
パターン4: データ不足対応型「後日回答を約束する」
使用場面:
- 詳細なデータが必要
- 計算が必要
- 確認が必要
基本フレーズ:
- ✅ I don’t have that specific information right now, but I’ll send it to you by email after this session.
- ✅ That requires more detailed analysis. Can I get back to you with the exact numbers tomorrow?
- ✅ Let me take note of that question and provide you with a thorough answer later.
発音ポイント:
- “specific” [spə-SIF-ɪk] 第2音節を強く
- 「スペシフィック」ではなく「スペスィフィック」
実例:



質問:
What’s the exact power consumption at peak load?



回答:
I don’t have that specific number right now, but I’ll send you the detailed specifications by email this afternoon.
May I have your contact information?
重要な行動:
- 約束したら必ず実行すること
- その場でメモを取る姿勢を見せる
- 具体的な期限を提示する(”by tomorrow”, “this afternoon”)
これが信頼構築の鍵です。
パターン5: 批判的質問対応型「建設的に受け止める」
使用場面:
- 批判的な指摘
- 懸念点の指摘
- 反対意見
基本フレーズ:
- ✅ That’s a valid concern. Here’s how we’re addressing it…
- ✅ You raise an important point. Let me explain our approach…
- ✅ I appreciate your question. From our testing, we found that…
発音ポイント:
- concern [kən-SURN] 第2音節を強く
- appreciate [ə-PRIː-ʃi-eɪt] 第2音節を強く
実例:



質問:
But doesn’t this approach have a significant reliability issue?



回答:
That’s a valid concern, and we took that very seriously during development.
Here’s what we found in our reliability testing…
マインドセット:
批判 = 関心の証
無関心な人は質問すらしません。批判的な質問こそ、あなたのプレゼンに真剣に向き合っている証拠です。
対応の3原則:
- まず質問を肯定する(”valid concern”, “important point”)
- 感情的にならない(冷静に、論理的に)
- データで答える(感情ではなく事実で)
Section 3: 質疑応答で使える基本フレーズ集


3-1. 質疑応答を開始する
✅ Now I’d like to open the floor for questions.
✅ I’ll be happy to take any questions you may have.
✅ Does anyone have any questions or comments?
発音ポイント:
- “floor” [flɔːr] 「フロアー」ではなく「フロー」(Rは軽く)
3-2. 質問者を指名する
✅ Yes, please go ahead.
✅ I see a question over there. Yes?
✅ Let’s take the question from the back.
ジェスチャー:
質問者に向かって手を差し出すと、「あなたの質問を聞いていますよ」というシグナルになります。
3-3. 質問に感謝する
✅ Thank you for that question.
✅ That’s an excellent question.
✅ I appreciate you asking that.
発音ポイント:
- excellent [EK-sə-lənt] 第1音節を強く
- 「エクセレント」ではなく「エクセレント」
なぜ感謝するのか?
質問してくれることで、あなたのプレゼンはより深い議論になります。質問は「攻撃」ではなく「貢献」なのです。
3-4. 質問の内容を確認する
✅ If I understand correctly, you’re asking about…
✅ So your question is…
✅ Let me make sure I understood your question…
これが重要な理由:
- 聞き間違いを防ぐ
- 考える時間を稼ぐ
- 全体に質問内容を共有する
3-5. 質疑応答を終了する
✅ I think we have time for one more question.
✅ Unfortunately, we’re running out of time. If you have any additional questions, please feel free to contact me later.
✅ Thank you all for your thoughtful questions.
終了のタイミング:
- 予定時刻の5分前には終了の合図を
- 「最後の1問」を明示する
- 個別対応の余地を残す
Section 4: 私が25年で学んだ、質疑応答の3原則
原則1: 沈黙を恐れない
質問を受けてから答えるまでの2-3秒の沈黙は、考えている証拠です。
実験してみてください:
次の質疑応答で、意図的に3秒間を取ってから答える。
会場は静まります。でも、それは「不快な沈黙」ではなく、「期待の沈黙」です。
原則2: 「わからない」は強さ
完璧主義は、グローバル環境では逆効果です。
失敗談(再掲):
質問の内容が少し専門外だったにもかかわらず、日本側の技術者が「知っているふり」をして答えてしまう。
その場はなんとか収まりますが、後日、回答の一部が事実と違っていたことが分かり、信頼の回復に時間がかかる――
学んだこと:
「I don’t know, but I’ll find out」は、
誠実さと責任感を示す最強のフレーズ。
補足フレーズ:
✅ I don’t have the answer right now, but that’s something I should know. Let me get back to you.
✅ I’m not certain about that specific detail. I’d rather verify and give you accurate information.
原則3: 質疑応答も「会話」
質疑応答は、尋問ではなく会話です。
意識すべきこと:
- 質問者の目を見る(1対1の対話)
- 笑顔で感謝する(質問は貢献)
- 全体に向けて答える(質問者だけでなく、会場全体に)
実践テクニック:
質問者を見ながら答え始める
→ 途中で視線を会場全体に広げる
→ 最後にまた質問者に視線を戻す
これで、「個別対応」と「全体共有」の両立ができます。
Section 5: 質疑応答の事前準備――「想定Q&A」の作り方
想定外の質問にも動じないための秘訣は、想定内を増やすこと。
ステップ1: 想定質問リストを作る
プレゼン準備の段階で、以下を書き出します:
- 確実に聞かれる質問(5個)
- 基本的な仕様
- コストや時間
- 他社製品との比較
2. 聞かれるかもしれない質問(10個)
- 技術的な詳細
- 将来の展開
- リスク要因
3. 聞かれたら困る質問(3個)
- 未解決の課題
- 弱点
- データ不足の領域
合計18個の想定Q&Aを作る
ステップ2: 回答を準備する
各質問に対して:
- 結論を一言で(15秒で答えられる)
- 詳細な説明(1分で答えられる)
- データや事例(必要に応じて提示)
例: 3パターン



Q: What’s the cost compared to the current system?



① シンプルな「結論+一言だけ詳細」
【結論】 It’s about 20% cheaper overall.
【詳細】 The running cost is lower, so the total cost goes down.
【データ】 Here’s a breakdown: [データ提示]



②「英語が苦手でも言えそう」な3ステップ型
【結論】 It’s almost the same at the beginning.
But in the long run, it’s cheaper.
【詳細】 Maintenance and power cost are lower.
【データ】 Here’s a breakdown: [データ提示]



③ 超シンプル版(まずはここからでもよい)
【結論】It’s a little cheaper than the current system.
【データ】 Here’s a breakdown: [データ提示]
ステップ3: 声に出して練習する
書いただけでは不十分。声に出して練習しましょう。
練習方法:
- 質問を録音する(または同僚に質問してもらう)
- それを聞いて、即座に答える
- 自分の回答を録音して聞き直す
- 改善点を見つけて、もう一度
目標: 18個の想定質問に、スムーズに答えられる状態を作る
まとめ: 今日から始める3つのアクション


アクション1: 想定質問リストを10個作る
次のプレゼンで聞かれそうな質問を、今日10個書き出してください。
テンプレート:
1. [質問] → [30秒回答] 2. [質問] → [30秒回答] …
アクション2: 5つのパターンから1つ選んで練習
この記事の5つのパターンから、最も使いそうなフレーズを1つ選び、
声に出して10回練習してください。
おすすめ:
- 時間稼ぎ型: “That’s a great question. Let me think about that for a moment…”
- 専門外対応型: “That’s outside my area of expertise, but I’d be happy to connect you with…”
✅ アクション3: 「わからない」を言う練習
鏡の前で、笑顔で言ってみてください:



That’s outside my area of expertise, but I’d be happy to follow up with you after the presentation.
この一言が言えるだけで、質疑応答の恐怖は半減します。
完璧な質疑応答は存在しない。でも、準備は8割を決める。


あの日、海外顧客との小さな技術打ち合わせで味わった、あの重たい沈黙。
そして会議室を出たあと、日本側の技術者が見せた、少し悔しそうな表情。
あの経験が、「英語が苦手な技術者の質疑応答を支える仕事をしたい」と思うようになった、大きな転機でした。
多くの技術者の方を見ていて感じるのは、
「完璧に答えなければ」というプレッシャーを手放した瞬間、質疑応答が一気に楽になるということです。
このマインドに切り替えた技術者の方ほど、
「今では、質疑応答が一番楽しい時間になった」とよく話してくれます。
なぜなら、質疑応答は
新しい視点をもらえるチャンス
だからです。
- 質疑応答の成功 = 完璧な回答 ではありません。
- 質疑応答の成功 = 誠実に、自信を持って対応すること です。
技術は一流なのに、質疑応答で損をするのはもったいない。
この5つのパターンを身につけて、
次のプレゼンでは堂々と「Any questions?」と言いましょう。
さらに学びたい方へ
YouTube「発音特訓シリーズ」
技術英語基本フレーズの発音を、60秒で解説。
調音点・調音法を視覚的に学べます。
🎥 特訓シリーズ
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最後に―質疑応答は「戦い」ではなく「対話」


質問されることを恐れる必要はありません。
質問は、あなたのプレゼンに興味を持ってくれた証拠です。
質疑応答の本質は、知識の披露ではなく、信頼の構築。
完璧な回答より、誠実な対応。
流暢な英語より、明確な発音。
即答より、正確な情報。
これが、グローバル英語の真実です。
あなたの次のプレゼンが、成功することを心から願っています。
質疑応答も「設計」できる。
そう信じて、準備を始めましょう。
英語は、『設計』で変わる。
この記事のポイント(まとめ)
✅ 質疑応答の5つの対応パターン
- 即答型:すぐ答えられる質問
- 時間稼ぎ型:考える時間を取る
- 専門外対応型:正直に「わからない」
- データ不足対応型:後日回答を約束
- 批判的質問対応型:建設的に受け止める
✅ 質疑応答の3原則
- 沈黙を恐れない(2-3秒はOK)
- 「わからない」は強さ
- 質疑応答も「会話」
✅ 今日からできる3つのアクション
- 想定質問リスト10個作成
- 5つのパターンから1つ選んで練習
- 「わからない」を言う練習
次回予告
次の記事では、「グローバル会議での発言術|日本人が陥りがちな5つの罠」をお届けします。
- なぜ日本人は会議で発言しないのか?
- 「I think…」より効果的なフレーズとは?
- 意見が対立した時の対処法
お楽しみに!

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