一流技術者タカさん・「昇進のために英語が必要だから」
・「海外出張があるから」
・「グローバルプロジェクトに参加するから」
英語を学ぶ理由を聞くと、多くの技術者がこう答えます。
どれも正しい理由です。
ただ、約25年間グローバル案件に関わる中で見えてきたのは、英語は「昇進条件」以上のものだということです。
英語を実務で使えるレベルまで育てると、技術者の設計思想を拡張する、即ち、技術そのものの“到達範囲”と“寿命”が変わります。
- 仕様レビューでの認識ズレが減る
- 海外チームと直接議論できる
- 自分の技術を、国境を超えて使ってもらえる
今日は「キャリアアップ」「年収アップ」よりも、技術者としての視野と技術の価値をどう広げられるか、という視点で英語の意味を整理してみます。
世界観が広がる:設計思想が変わる


「技術は世界共通だから、言葉は関係ない」
そう感じている方は多いはずです。
確かに、ソースコードや回路図に国境はありません。
しかし「何を重視して設計するか」「どこでトレードオフを取るか」は、国や文化によって驚くほど違います。
実際の現場で見た3つの“設計方針”
- ドイツのプロジェクト
余分な処理や冗長なUIは徹底的に削られ、「シンプルで壊れにくい」構成が最優先でした。
コードレビューでも「この分岐は本当に必要か?」という議論が延々と続きます。 - インドのオフショアチーム
完璧な設計書を待つのではなく、「2週間でまず動くプロトタイプ」を出すことが前提。
そこから実運用しながらバグを潰し、機能を増やすスタイルが徹底されていました。 - アメリカのスタートアップ
仕様書の最初のページにあったのは、詳細な要件ではなく“このサービスで誰が救われるのか”という1文。
議論の多くは「この機能はユーザーの行動をどう変えるか?」に集中していました。
英語を通じてこうした議論に“直接”参加できると、自分の設計思想もアップデートされていきます。
同じ技術でも、「どこに価値を置くか」でプロダクトの形が変わることを、肌感覚で理解できるようになります。
謙虚さと70点主義:バグゼロではなく“致命的バグゼロ”
私自身の経験ですが、大学卒業後すぐにアメリカに渡ったとき、英語レベルは完全な初心者でした。
会議で発言しても、何度も「Sorry, what?」と聞き返される。
内容は正しいのに、発音やリズムのせいで伝わらない。
「仕様は合っているのに、インターフェースのせいで動かない」状態そのものでした。
そこで学んだのは、次の2つです。
- ルール1:
「理解した=できる」ではない。
発音も、アルゴリズムと同じで、手と口を動かす“実装フェーズ”が必要。 - ルール2:
英語は100点ではなく、“致命的バグゼロ”を目指す。
通じるかどうかを決めるのは、アクセントの有無ではなく「相手が誤解しないかどうか」。
日本の技術者は、品質基準が高い分、「間違えるくらいなら黙っておこう」となりがちです。
しかし、グローバル案件で求められているのは、「70点の英語でいいから、必要なタイミングで情報を出してくれる人」です。
多様性を理解する:同じ単語でも仕様が違う


技術の世界では「最適解」を探しますが、人と人のコミュニケーションには“唯一の正解”がありません。
たとえば、アメリカ人上司から「That’s interesting.」と言われて、喜んだことがあります。
「興味を持ってくれた」と思ったからです。
しかし後で、「微妙だね」「今は採用しないかも」というニュアンスで使われることも多いと知りました。
同じ英語でも、場面や相手によって“仕様”が変わるのです。
沈黙も同じです。
- 日本の会議:沈黙=「反対はないので、とりあえずOK」になりがち
- ドイツの懇親会:沈黙=「それぞれ考えながら飲んでいるだけ」で、特にネガティブな意味はない
英語でやり取りしながら、こうした「文化ごとのデフォルト値」を知っていくと、
- どこで確認を入れるべきか
- どこまで言葉にして合意を取るべきか
の基準も変わってきます。
これは、システムの「暗黙仕様」を洗い出す作業にとてもよく似ています。
25年でたどり着いた“グローバル英語”という設計思想


これらの経験を、技術者向けに3つの到達点としてまとめると、こうなります。
到達点1:ネイティブ英語ではなく「グローバル英語」を仕様にする
20代で渡米したとき、「ネイティブのように話せなければプロとして認められない」という空気がその時代には確かにありました。
しかし、その前提で戦おうとすると、いつまでも“劣化コピー”のままです。
そこで仕様を変更しました。
ネイティブ並みの発音 → 多国籍メンバーに「誤解なく伝わる」発音
滑らかさ → 会議やレビューで聞き返される回数
こう仕様を変えた瞬間、英語は「才能」ではなく「設計とトレーニングの対象」に変わりました。
到達点2:音声学という“デバッガー”を導入する
何度直しても通じない音がある。
理由が分からない。
そこで使ったのが音声学でした。
- 舌の位置
- 口の形
- 息の出し方
- 音の長さや強弱
これらを「ログ」として観察すると、なぜ通じないかが見えてきます。
技術者にとって、音声学は“発音のデバッガー”です。
原因がわかれば、対策も打てます。
到達点3:安定して伝わる“運用設計”を作る
今の職場では、「English Speaking Stability No.1」と評価されています。
それでも、完全なネイティブ発音ではありませんし、文法ミスもゼロではありません。
それでも安定して伝わる理由は、
- 話す順番のテンプレートを決めている
- よく聞かれる質問に対しては、事前に「回答スクリプト」を持っている
- 初めての場面でも、「結論→理由→例」のパターンだけは崩さない
といった「運用の型」を作ったからです。



英語は、単なる“道具”ではなく、人と人・文化と文化をつなぐ“橋”です。
橋を落とさないために、どんな強度・構造・保守計画にするか。
その設計が「グローバル英語」だと考えています。
まとめ:技術者が英語を学ぶ、本当の価値


昇進や年収アップのために英語が必要、というのは事実です。
ただ、それは“副産物”と考えても良いくらいです。
英語を学ぶことで、技術者は次のようなメリットを得られます。
- 自分の技術の“到達範囲”が広がる(国内だけでなく、世界の現場で使ってもらえる)
- 設計思想のバリエーションが増え、より良い最適解を選べる
- 文化差による“仕様バグ”を減らせる
そして何より、50代から学ぶ英語は「点数」ではなく「実装」に直結します。
- これまでの経験
- 失敗事例
- 現場での判断材料
こうした蓄積があるからこそ、「どの英語をどこで使うか」を設計できるからです。
完璧な英語じゃなくていい。
グローバル英語で十分です。
技術者として培ってきた知識と経験を、国境を超えて届けるための“通信プロトコル”として、英語を設計し直してみてください。
その過程そのものが、キャリアだけでなく、人生の解像度を上げてくれるはずです。

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